夕方になりかけた時間。
携帯電話が鳴った。
発信者名はじょうだんをいい合っては笑ういつもの友、Yさんだ。
「へいへいへ〜い。今焼き芋たべてんだから」
と軽口たたいて電話に出ると......Yさんは鼻声で、静かに愛犬くろちゃんの死を告げた。
焼き芋が本当にのどに詰まって、私は声も出ん。
生後2〜3日から見知っていたくろちゃん。
18年前、ある作業場で飼われていた(なんとな〜く居ついていた状態)モモコという犬から生まれ、飼い主探しも手伝った。
一時は、うちで飼おうともしたけれど、当時は「犬猫禁止」の集合住宅に住んでいたため、断念。
一生懸命飼ってくれそうな人を探したが、見つからなかったのだ。
そして......仕方なくという感じでYさんが引き受けることになったのだ。
Yさんちには、先住犬リリちゃんがいたので迷って迷っての決断だったと思う。
消極的引き取りであったが、もともと大の犬好き一家だもの、一家総出でのかわいがりにくろちゃんは素直で可愛げのあるいい子の育った。
アタシが時々(ほぼ毎日)遊びにいくと、すっごい勢いでドタバタジタバタして歓待してくれた。
そのくろちゃんが死んだ。
大急ぎでYさんのところに向かう。
だびにふされるのは、午後7時だという。
ぎりぎりで間に合う時間だ。
走って電車に飛び乗る。
Yさんの家のベッドでくろちゃんは花に囲まれていた。
安定のかわいさを保っている。
さわってみたらいつものようにやわらかかった。
耳はいつものようにすべすべだった。
いつものように眠ってるみたいだった。
ドタバタして歓待してくんないのがいつもと違っていただけだ。
二時間半後にくろちゃんは真っ白な小さな犬に変わった。
真っ白な骨さえかわいく見えた。