娘が子どもを連れて遊びにきて、そして帰るとき、バスに乗るまで見送る。
行くバスに、バイバイと手をふる。
そのたんびにしつこく私は思い出すのだ。
30年も前の出来事なんだけど。
1才になったばかりの娘と私はバスに乗っていた。
下車する停留所がもうすぐ...というタイミングで娘はいきなりワッと泣き出したのだ。
泣く娘をあやしながらバスを降りると、いっしょに小学校の高学年生ぐらいの男子もいっしょに降りた。
彼は、大きな声を出して傘をふりまわしながら、我々を追っかけてきた。
足もひきずっていた。
養護学校の生徒だった。
私は怖くなって、娘を横抱きにしながら足早で逃げた。
でも彼は追いかけてくる。
傘ブンブンと奇声が意味なくこわかった。
傘の先で刺される!と思った。
郵便局があったので逃げ込んだ。
ただならぬアタシの雰囲気に、郵便局の女性局員さんは、
察してくださったようだった。
私の顔は激しくひきつってたと思う。
彼女は続けて飛び込んできた彼の手をとって、
「どうしたの?」
と聞いた。
彼は局員さんに何やら話していた。
うんうんと局員さんは聞いて、それから私に説明してくれた。
「赤ちゃんが泣いていたから、涙をふくようにテッシュを渡したかったらしいのよ」
彼はテッシュで、娘と私の顔をぐいぐいとこすってくれた。
ごめんね。ありがとう。
何回いっても足りんだろう。
...して彼は、礼には及ばぬといった風情でスタスタと去っていった。
後日、郵便局であの局員さんと会ったので、あのときのお礼と詫びをいったら、
「ああいうときは『どうしたの?』って聞けばだいたいわかるのよ」
と私にいった。
彼女の子どもも養護学校に通っているということだった。
わけわかんないような行動にみえても、ちゃんと理由があることだって。
しゃがんで「どうしたの?」と聞けば済むことだった。
30年以上も経つけど、自分のしでかしたでかいミスと、卑しい心を忘れない。
もう彼は、優しいおじさんになってる年頃だよなあ。