ご主人の仕事の関係で、3ヶ月ほど前からスウェーデンにいっちゃった友だちがいる。
昨年の末、ご主人から「海外赴任」のはなしを相談されたとき、
「迷ってるの」
と彼女はいっていた。
いいじゃんいいじゃん北欧に住めるなんて!いっしょにいっちゃいなよ!
......と、若いころの私だったら即座にいったことだろう。
いつか遊びにおしかけるよ〜!
ぐらいもぜったいに付け加えてた。
しかし、60才をいくつか過ぎての海外赴任は、即決しがたいものがあろうことは、想像にたやすいことだ。
若いうちの海外赴任も迷うことは多々あるだろうけど、比ではない。
年老いた親、高齢の犬、初産したばっかの娘、身内の病気などなど気にかかることや、手を必要とされる事々が増えるものだ。年かさねてくると。
そりゃやっぱり悩むよね。
わ〜いわ〜い♪GOGO♪とはいかないもの。
うんうん悩んだすえ、彼女はご主人といっしょに行くことを決めた。
赴任先でも大小いろいろ困難なことがあって、今やっと落ち着いた生活になったよう......。
「これから布屋さんにいってきます」
など日常生活のようすのメールをもらう。
街路樹の名前がわかって、街がちょっと身近に感じられてきたそう。
生まれてはじめて、実家以外の場所に住み、ご主人と二人だけの生活もこれまたはじめての生活をとても楽しんでいる。
なんでも楽しめる性格もてつだって、電車の乗り方ミスやスイカの買い方のトンチンカンもまるごと笑いとばしておもしろがっている。
スウェーデンから小包が届いた。
たくさん貼ってある切手、どれもがかわいい!
きっと、選んでくれたんだろうなあ。

娘が子どもを連れて遊びにきて、そして帰るとき、バスに乗るまで見送る。
行くバスに、バイバイと手をふる。
そのたんびにしつこく私は思い出すのだ。
30年も前の出来事なんだけど。
1才になったばかりの娘と私はバスに乗っていた。
下車する停留所がもうすぐ...というタイミングで娘はいきなりワッと泣き出したのだ。
泣く娘をあやしながらバスを降りると、いっしょに小学校の高学年生ぐらいの男子もいっしょに降りた。
彼は、大きな声を出して傘をふりまわしながら、我々を追っかけてきた。
足もひきずっていた。
養護学校の生徒だった。
私は怖くなって、娘を横抱きにしながら足早で逃げた。
でも彼は追いかけてくる。
傘ブンブンと奇声が意味なくこわかった。
傘の先で刺される!と思った。
郵便局があったので逃げ込んだ。
ただならぬアタシの雰囲気に、郵便局の女性局員さんは、
察してくださったようだった。
私の顔は激しくひきつってたと思う。
彼女は続けて飛び込んできた彼の手をとって、
「どうしたの?」
と聞いた。
彼は局員さんに何やら話していた。
うんうんと局員さんは聞いて、それから私に説明してくれた。
「赤ちゃんが泣いていたから、涙をふくようにテッシュを渡したかったらしいのよ」
彼はテッシュで、娘と私の顔をぐいぐいとこすってくれた。
ごめんね。ありがとう。
何回いっても足りんだろう。
...して彼は、礼には及ばぬといった風情でスタスタと去っていった。
後日、郵便局であの局員さんと会ったので、あのときのお礼と詫びをいったら、
「ああいうときは『どうしたの?』って聞けばだいたいわかるのよ」
と私にいった。
彼女の子どもも養護学校に通っているということだった。
わけわかんないような行動にみえても、ちゃんと理由があることだって。
しゃがんで「どうしたの?」と聞けば済むことだった。
30年以上も経つけど、自分のしでかしたでかいミスと、卑しい心を忘れない。
もう彼は、優しいおじさんになってる年頃だよなあ。